共立出版 2002年3月25日発行,426 頁,定価 5800 円
「特異点の数理」のシリーズは4巻からなり, それぞれ関連の深い内容からなる2部だてとなっている. 私共の第3巻を持ってシリーズは全巻完結した.
第3巻は,特異点論のうちでは解析学に近い内容を持っている. 特に古典的,解析的な問題から始めて,代数的に整理・洗練され, それによってまた幾何的な理解が深まると言うような過程を重視した.
第3巻は,第0章,第I部,第II部,付録A,B,Cからなる. 第I部は吉永氏の遺稿をもとに福井氏が大幅に加筆修正したものである. 第II部は泉が執筆し福井が修正を加えて完成した.
私(泉)が主として担当した第II部について少し内容を述べておく. 第II部は主として解析関数や解析的な写像を取り扱う.
第1章では解析性を定義するために,多重級数の和の合理的な定義から はじめ収束冪級数の話に及ぶ.
第2章ではトゥージュロンの定理と シュパレクの定理という関数の位数にかかわる定理を紹介する. ここまでがユークリッド空間上の関数の話である. 初等解析学をあまり離れないこれらの定理を, 特異点を持つ空間に拡張することが第II部の流れである.
第3章以降を理解するためには付録Aの知識が必要となる. Aは可換環論と代数幾何学の初歩である.
第3,4章で特異点の幾何学を記述する局所環の言葉を導入する.
第5章では特異点における解析関数の芽のなす局所環を定義し, ワイエルシュトラスの準備定理を縮小写像の定理を用いて証明する.
第6章を理解するに付録Bの知識が必要である. Bは加群の理論の紹介である.必要上テンソル積と平坦性まで説明した.
第6章では層と環付空間の概念を導入し, 特異点を持つ空間「解析空間」を定義する. また連接層を定義し,岡の連接性の定理を Malgrange の方法で証明する..
第7章は解析空間の局所的な構造を, 以上で学んだ方法を用いて記述し理解することに当てられる. ここにいたって,特異点の幾何学的な像がどのようなものであるかが 理解されるであろう.
第8章はさらに進んだ解析空間の性質の紹介するが, 概念が把握できる程度の説明にとどめる.詳細は一般的な 解析空間論の本に委ね,本書独自の部分に進もうという次第である.
第9章は解析空間の一般的なブローアップを解説する. 代数的な場合のブローアップの解説はいろいろな本に 述べられているが,解析空間の場合は, 広中氏のタイプ打ちのレクチュアーノートを除いて, 丁寧に書いた書が見当たらないので詳しく説明した.
第10章は サミュエル,リース,永田,ルジューヌ-テシエ などによる,特異点における位数に関する基本定理の紹介を行う. ここで「位数の理論における幾何,解析,代数の三位一体」に到達する.
最後の第11章で,「積の位数に関する不等式」を紹介する. (ただし証明はもっともエレガントな2次元以下の場合しかしか行わない.) これから懸案であったトゥージュロンの定理とシュパレクの定理の特異点版 である位数の不等式に到達する. これもこの書独自のものである. さらに関連する問題について著者の気づいた事柄を述べる.